地域連携オンラインイベント「学術野営2020 in 奥州」を開催

 2020年7月11日(土)・12日(日)に地域連携オンラインイベント「学術野営2020 in 奥州」を開催しました。昨年に続いて合同会社AMANEと共同で主催し、共催として、奥州市教育委員会、えさし郷土文化館、大学共同利用機関法人 人間文化研究機構、挑戦的研究(萌芽)18K18525、基盤研究(B)20H01382、特別推進研究19H05457からの協力を得ました。

 本イベントは、当初、岩手県奥州市での開催を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症対策のため、現地開催はやむを得ず中止しました。オンラインでの参加を基本とした一方、歴博関係者及び総合資料学の共同研究者については、感染予防対策に留意した歴博の会場にて参加することもできる「ハイブリッド」形式での開催を実施しました。

 11日は、昼の部と夜の部の二部構成でおこないました。昼の部では、主催者側からの趣旨説明・問題提起の後、奥州市の高橋氏から奥州市所在の史資料の現状と課題についての報告がなされ、地域における歴史・文化資料が抱える現状の課題が示されました。続いてのセッション(通称コロナセッション)は、今まさに渦中にある新型コロナウイルス感染症の流行が歴史文化資料の保存・活用に与える影響とその対応について“話を聞き合う場”として設定され、参加者は、それぞれが今直面している現状と、問題解決に向けた意見や情報を共有し合いました。その後、3つのパラレルセッションに分かれ、壱の座では自然災害による資料の喪失、弐の座ではコミュニティの縮退化による資料の喪失、参の座ではデザインの視点から見た博物館資料の活用について議論をおこないました。これらの議論を受け、夜の部においては、3つのセッションとコロナセッションの総括と全体討論をおこないました。

 12日は、奥州市の3つの歴史文化施設(奥州市牛の博物館、後藤新平記念館、えさし郷土文化館)を回るオンライン巡見をおこないました。事前に撮影された、各施設の学芸員による展示や所蔵資料の解説映像をYouTubeで再生しつつ、学芸員がコメントを入れたり手元の資料を解説したりする様子をライブ中継し、参加者がチャット欄に書き込んだ質問等にもその都度答えるという形式で実施されました。前例を見ない試みでしたが、自宅や職場から学芸員の専門的な解説が聞けたとして、参加者から好評を得ることができました。

 両日を通し、オンラインで開催したことで、北海道から沖縄県までの参加者がフラットにつながり、また研究者や学生、地域の人々など参加者の層も多様化し、発言方法についても、口頭発言だけでなくチャット欄やTwitterへの書き込みなど、選択の幅が広がりました。すべてのセッションを通し、歴史・文化資料の保存・活用していく上での課題について議論を深めることができました。特に、デジタル資料と実物資料のそれぞれの価値と役割について、また、喫緊の問題である新型コロナウイルス感染拡大下とその後の社会における資料保存・活用については、さらに議論を展開させていくことの重要性が示されました。

【プログラム】
7月11日(土)昼間の部 13:00〜18:00 司会:堀井洋(AMANE)・後藤真(国立歴史民俗博物館) 
 13:00〜13:30 開催挨拶・趣旨説明・問題提起 (堀井/後藤)
 13:30〜14:00 奥州市所在の史資料に関する現状と課題 発表者:奥州市教育委員会 高橋和孝氏
 14:10〜15:30 新型コロナウイルス流行後の社会における資料保存・活用について 司会:川邊咲子(国立歴史民俗博物館)
 15:40〜18:00 各座における議論
【壱ノ座】「災害を超えて資料を「喪失」より救う-大規模自然災害と地域資料の保全・活用-」 座主:川内淳史(東北大学災害科学国際研究所)
【弐ノ座】「縮退化するコミュニティ、失われゆく資料」 座主:山内利秋(九州保健福祉大学)
【参ノ座】「ミュージアム起点のものづくり-好奇心と学びをデザインする-」
座主:原嶋亮輔(Root Design Office)
7月11日(土)夜間の部 19:00〜 全体討論 司会:高田良宏(金沢大学) 
      ・日中の議論の総括および今後に向けた各参加者からの意見表明
7月12日(日)【オンライン巡見】
 10:00〜12:00  奥州市牛の博物館 
 13:00〜15:00 後藤新平記念館
 15:00〜16:00 えさし郷土文化館

歴博会場:趣旨説明・問題提起の様子
歴博会場:参の座の様子