少し時間が経ってしまいましたが、2020年度の総合資料学のプロジェクトの全体の状況を報告いたします。
まず、これは世界中全て同様のことですが、新型コロナウイルスの影響が全てであったと言っても過言ではありませんでした。
国際会議等への参加は全て延期ないし中止となり、年度前半については、研究会の実施もできませんでした。大学との連携授業も全て中止となるなど、活動が大きく制限された1年でもありました。その中で、オンライン・ハイブリッドへの環境整備を進め、いくつかの成果を出してまいりました。
ユニット研究会は、全部で4回の実施となりました(人文情報2回、異分野連携・地域連携各1回)。
第1回人文情報ユニット研究会
第2回人文情報ユニット研究会
第1回異分野連携ユニット研究会
第1回地域連携・教育ユニット研究会
人文情報ユニットは、人文系クラウドソーシングという観点から、デジタルツールを介した非専門家による研究のあり方について研究を進める会と、TEIデータ構築という二つを検討課題といたしました。異分野連携は、歴博の中でも近年特に重要な研究課題となっている、自然科学的年代特定の手法についての研究会を実施しました。そして、地域連携・教育ユニット研究会では、災害資料という観点から、ご報告をいただきました。これらはいずれも2021年度、もしくはそれ以降に取り組むべき課題の一端を示したものでもあり、今後の総合資料学ないし後継プロジェクトの大きな課題となっていくと思われます。
全体のイベントとしては、学術野営2020、および全体集会を実施いたしました。いずれも、歴博および関連会場とオンラインというハイブリッド形式で執り行われました。
学術野営関連イベント
まず、学術野営「2020」について報告します。当初は、岩手県奥州市にて行われる予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、歴博会場および奥州市会場とオンラインという形式となりました。この年は、三つの「座」に分かれてパラレルセッションで討論を行う形となりました(災害時の資料喪失・日常時の喪失・新たな活用可能性としての「デザイン」)。その後「オンライン巡検」として、奥州市のいくつかの博物館等について事前に録画した紹介動画を見てもらい、皆さんからの質問を受け付ける形式のイベントを実施いたしました。地域歴史資料の継承を多様な論点から考えるきっかけとなりました。なお、学術野営2021は、再度奥州市にて実施予定です。こちらにつきましては、連携協定を結んでおります合同会社AMANEさんのご尽力に深く感謝申し上げます。
書籍につきましては、ミシガン大学出版が公開しているプラットフォーム、Fulcrumより、“Japanese and Asian Historical Resources in the Digital Age”という書籍を出すことができました。国際共著書籍として、インドネシア、バンドン工科大学の方にもご寄稿をいただき、計10本の論文を掲載しています。こちらはフルオープンアクセスの書籍(査読あり)です。
連携事業といたしましては、昨年度3者(奥州市・合同会社AMANE・歴博)による協定を結びましたものをもとに、岩手県奥州市さんにて、6月と8月に資料調査を実施いたしました。こちらは、特に公有資料の全体像把握を行い、その記録を行うことで、資料の消失への対応を行おうというものです。結果的には20000点を超える文書量の確認をいたしました。また、khirin-ldによる民俗資料の公開およびIIIFによる画像公開を2月末に開始いたしました。
大学等との連携としては、東京芸術大学と、Getty Vocabulariesへの日本関係博物館・美術館語彙搭載に向けた活動を開始いたしました。2018年の国際研究集会以降の動きとして位置づけられ、歴史資料の検索に役立つ辞書構築が期待できます。
そして、国際的にはインドネシア・バンドン工科大学との連携協定を結ぶことができました。
新型コロナウイルス感染症の対応といたしましては、鹿児島県与論町・琉球大学高橋研究室との3者覚書を交わしまして、「コロナアーカイブ」の活動を開始しました。特に与論町教育委員会の皆様・与論民俗村はじめ、地域の皆様に大きな理解をいただきつつ、新型コロナに対する「島」の記録を残すことを進めています。
また、他大学の先生に代表となって研究を進めていただく公募型共同研究の奨励研究を6件実施いたしました。
2020年度搭載データとしては、2020年4月に、当館所蔵の宋版『史記』の公開を開始しました。また、2021年2月には先述の通り、奥州市民具データの公開も行っています。これらはいずれも目録と画像の公開であり、引き続き、館蔵資料・地域資料のバランスの良い公開を進めていきたいと思います。
また、新型コロナに対応するものとして、「あつまれどうぶつの森」における展開も行いました。詳細は、リンク先を確認いただければと思いますが、Getty のサービスを活用し、ゲームの中に歴博の資料を取り込んでもらう例を2020年4月に行いました。新型コロナウイルス蔓延化において、手探りで始めたものでしたが、今後の可能性を見るという点では極めて重要なものでもあると考えます。
さらに、2021年1月より、当館の教員であり、メタセンターにも所属しております橋本氏が作っている、「みんなで翻刻」にkhirinの資料を載せていただくことになりました。まずは、鳴門教育大学附属図書館様がお持ちの後藤家文書からスタートしています。今後も可能な文書資料については、随時対応を進めて参ります。
国際的な発表の成果といたしましては、全部で3件の国際会議発表(いずれもオンライン)を行うとともに、1件の主催国際シンポを行いました。
•CIDOC2020 (2020年12月) –Documentation of Ethnographical Object Biography using CIDOC CRM (川邊・亀田・後藤)
•Making History Together: Public Participation in Museums(2020年12月 –Citizen Collaboration for the Preservation and Transcription of Historical Materials in the National Museum of Japanese History(亀田・橋本・後藤)
•AAS2021(2021年3月)–Constructing international university network to preserve local historical resources.(天野・後藤)
国際シンポジウム
ここで、全体を再度総括しておきたいと思います。何より、国際的な展開が困難であったことが、当初の予定に大きく影響しています。2020年度は総合資料学6年間のうち、5年目という成果の報告と国際的フィードバックが特に求められる段階でした。それが進められなかったことは、大変に大きな影響となりました。とはいえど、国際的なネットワークそのものが途絶えたわけではありませんので、最終年度に向けてオンラインを活用しつつ、充実を図っていきたいと思います。また、教育についても授業が全て中止となりました。総合資料学を学問として成り立たせるためには、教育展開が不可欠です。この点については、本事業終了後も継続的に考えていくべきものであり、ハイブリッド・対策を施した対面授業などの工夫を行いつつ、再開していく予定です。
そのような状況の中でしたが、地域展開は比較的充実して進めることができました。とりわけ、いくつかの自治体データ投入に向けて動くことができたのは大きなメリットであり、総合資料学の目的にそったデータ構築への期待がふくらみます。
最後に、2020年度の活動を今後の展開について、少し説明をしておきたいと思います。2021年度は、引き続き基盤データの構築も進めてまいります。連携を開始しつつ進めているGettyや関連する歴史資料語彙などの蓄積について検討を進めます。これにより、つながるデータ基盤であるkhirin-ldもさらに「より発見しやすいツール」として展開していくことでしょう。また、研究データリポジトリの検討や、TEI構築も今後の重要な課題です。歴史資料研究データを機械(コンピュータ)の側からもより容易に使えるようにするために、このような整備を進めていきます。そして、これらのデータ化を進めるとともに、さまざまな地域歴史資料の継承を通して、地域の歴史や文化の継承をさらに考えていきたいと思います。新型コロナウイルスに関するアーカイブも含めて、検討を進める必要があるでしょう。
2021年度は総合資料学のプロジェクトも最終年度に入ります。新型コロナウイルスの状況はいまだに厳しく、事業はさまざまな形で制限されておりますが、少しでも成果を残すとともに、地域歴史文化と資料の継承、そのためのデータ基盤構築を目指して、進めてまいります。そして、さらなる展開につなげうる、多数の研究の可能性を追求してまいります。