奥州市えさし郷土文化館において開かれた「地域史研究講座2021」の第1回(2021年1月24日)・第2回(2021年2月28日)にメタ資料学研究センターから後藤真准教授と川邊咲子プロジェクト研究員が参加し報告を行いました。歴博と奥州市、合同会社AMANEの三者は地域資料継承支援に関する覚書を締結しており、今回の同市での報告は、その連携事業の一環として今年度実施したイベントと資料調査事業の成果を市民の方々と共有し議論を深めることを目的としました。
第1回は、「学術野営2020 in奥州市 スピンオフ(市民向け成果報告会)」と題し、歴博の久留島浩特任教授による講演、2020年7月11日に開催された「学術野営2020 in奥州市」の成果報告、登壇者全員による討議の三部構成で行われました。第一部では、久留島氏の自治体史編さんの経験や奥州市の取り組みから、地域文化資料調査の方法と課題が提示され、地域資料を今後も残し伝えていく上での自治体と住民の役割についての見解が述べられました。第二部では、「学術野営2020 in奥州市」にて開かれた各セッションの座主・司会者により、当日議論された内容を中心に報告がなされました。最後の討議では、会場の参加者から専門家と市民の対話の方法や地域資料を保存・継承していく上での研究者の役割について質問がされ、登壇者や司会者が各々考えや意見を述べました。
第2回は、「奥州市記録資料調査事業報告会」として、奥州市において実施されてきた歴史文化資料調査の事業内容と成果報告がなされました。奥州市教育委員会の高橋和孝氏からは同市の歴史資料の調査・記録について、奥州市牛の博物館の川田啓介氏からは同市の文化財建造物調査について、近年行われてきた事業の内容と成果が報告されました。その後、歴博の後藤准教授から歴博と奥州市、合同会社AMANEにより締結された覚書と連携事業について、資料のデジタルデータ化とその公開について説明がありました。続いて合同会社AMANEの堀井美里氏と寺尾承子氏からは、三者連携事業の一環として実施された奥州市が所有する古文書等の歴史史料や民俗資料の調査について成果報告がなされました。それらの報告を受け、総合討論では、会場の参加者からの質問を交えて活発な意見交換が展開されました。三者連携による歴史文化資料の記録・保存・継承の取り組みを奥州市モデルとして提示し、それを他の自治体でもそれぞれに合った形を検討しつつ取り組んでいくことができるのではないかという話題には、会場の参加者からも期待の声が寄せられました。その他にも、今後の歴史研究におけるデジタル技術の活用の展望や、歴史文化資料を保存・継承していく上での市民との連携のあり方、空き家問題や資料の個人保管にまつわる課題、市が所有する資料の収蔵施設の課題などについて意見が交わされました。
2回にわたり地域に向けた研究成果報告と市民の方々との意見交換の場を持つことができ、今後の三者連携のあり方や歴史文化資料の保存・継承に向けた取り組みについて議論を深めることができました。自治体や市民の方々と地域資料について共に考えながら研究活動を行っていくことの重要性と可能性を再認識し、今後、地域において資料の保存・継承の実践をしていく上で、今回議論された内容が大いに生かされるようにしていきたいと思います。
*当日のプログラムなどの詳細は、下記えさし郷土文化館のホームページに記載してございます。ご参照ください。