2021年12月16日(木)に、バンドン工科大学(ITB)と共催で総合資料学人文情報ユニットシンポジウムをオンライン開催しました。同大学と歴博は2020年8月に包括連携協定を締結しており、今回は昨年度の国際シンポジウムに引き続き2回目の共催イベントとなりました。
テーマを「生活文化に関するモノ資料のデジタルアーカイブ化」とし、ITBと歴博それぞれから研究報告がなされました。ITBからはDesign Ethnography Labのプラナンダ・ルフィアンシャ研究員が、同研究所が製作・公開している デジタルミュージアムMuseum Digital Benda Keseharian (Digital Museum of Everyday Objects)について報告を行いました。当プロジェクトでは、フィールドでモノを集めるのではなく、モノのデータや情報を集め、それらをデジタルミュージアムで公開するという取り組みが行われています。本報告では、デジタルミュージアムの基本的なコンセプトや立ち上げまでの過程が説明された後、フィールドでのデータや情報の収集において用いている技術や手法、そして今後の展示イベントや各所との協働などの展望について紹介されました。撮影については、mobile studioという独自の撮影セットやフォトグラメトリなどの技術が紹介され、情報の記録については、モノ資料の所有者や使用者による語りの記録について説明がありました。また、地域において市民を巻き込んでモノの資料化に取り組むことにより、市民が身の回りのモノの歴史文化的価値に気づくことにつながったという事例の紹介もされました。
歴博からは川邊咲子プロジェクト研究員が、日本における民具資料のデータ公開の課題を踏まえ、地域民具資料のデジタルアーカイブ化の課題と展望について報告を行いました。日本のほとんどの市区町村が各自で民具コレクションを持っていますが、情報公開がされておらず多くが死蔵状態にあります。そうした問題背景から、本報告では、資料の個別性・唯一性が無視されてきたこと、資料カタログとしてのアーカイブやきれいなプロフィール写真の提示に留まっていることなどが、既存の民具のデジタルアーカイブの課題として指摘されました。そこから、①綺麗なプロフィール画像にこだわらない ②オブジェクト ・ バイオグラフィ (物の伝記)を記録する ③多様な人々が情報を共有し活用できるプラットフォームをつくる という3つの提言がなされ、そうした民具の情報公開こそが新しい文化の創造にもつながると主張されました。
2つの報告を通し、「モノと人を繋ぐ」こと、そのためにいかに情報を収集し公開するかが共通の課題であることがわかりました。したがってディスカッションでは、データの収集・記録、公開、活用の過程に市民をどのように巻き込んでいくかが主な議題となりました。また、モノ資料そのもののメタデータだけでなく、モノにまつわる無形の要素、つまり、事象や技術・知識に関する情報をいかにデータ化するかについても意見交換が行われました。クラウドソーシングの可能性についても言及があり、市民参加型のデジタルアーカイブづくりを目指すことが生活文化に関するモノ資料のデータ公開・活用の取り組みにおいて重要であることが改めて確認されました。
【日時】2021年12月16日 15:00-17:00(日本時間)
【会場】オンライン(zoom)
【言語】英語・日本語(同時通訳あり)
【プログラム】 司会:Virliany Rizqia (金沢大学大学院)
Opening speech | 後藤真(国立歴史民俗博物館) |
Report 1 | ”Digital Museum of Everyday Objects” Prananda Luffiansyah (バンドン工科大学) |
Report 2 | ”Challenges of digital archives of everyday objects in Japan” 川邊咲子(国立歴史民俗博物館) |
Summary and comment | 橋本雄太(国立歴史民俗博物館) Arianti Ayu Puspita(バンドン工科大学) |
Discussion |