2017年8月2日(水)、異分野連携ユニット第2回を「複製による正倉院文書ワークショップ」として開催しました。
日時:2017年8月2日(水)13:00~17:00
場所:国立歴史民俗博物館 第1調査室
次第:
13:00~13:05 異分野連携ユニット代表(三上喜孝)挨拶・趣旨説明
13:05~14:10 佐々田悠(宮内庁正倉院事務所)「文書のカタチと成り立ち」
14:10~14:25 休憩(図書室にて、仁藤敦史〈国立歴史民俗博物館〉「正倉院文書自在閲覧システムの紹介」)
14:30~15:30 山口英男(東京大学史料編纂所)「正倉院文書複製からわかる?原本所見―『正倉院文書目録』の記述内容」
15:30~15:35 休憩
15:35~16:05 小倉慈司(国立歴史民俗博物館)「正倉院文書複製の制作過程」
16:05~16:30 意見交換(ワークショップはここまで)
16:30~17:00 総合資料学共同メンバーによる意見交換
2017年2月に開催した「古文書を多角的に分析する」を承け、今回は正倉院文書複製に焦点をあて、特に若手研究者に広く参加を呼びかけるかたちで開催したものです。当初の予定を超える32名(共同研究メンバーをのぞく)の参加があり、盛況のうちに終了いたしました。今回は結果として参加者が古代史と日本語学研究者にかたよりましたが、今後、古代史以外に専門分野を持つ研究者を巻き込んだ形で実施する方策を検討していきたいと思います。
【参加記】 神戸航介(東京大学大学院 院生)(抜萃 全文は9月末発行予定の「総合資料学ニューズレター」3号を御覧になってください)
2017年8月2日、正倉院文書ワークショップが開催された。今回のワークショップでは、若手研究者を主たる対象として、正倉院文書の実物調査に長年携わってきた方々が講師として、実際に複製を目の前に置き参加者とともに囲みながら、複製を利用する際のポイントや今後の研究の可能性などを解説された。
宮内庁正倉院事務所の佐々田氏は、経巻の作成の際に写経料紙の両端に貼り継ぐ余白(端継)が、作業の途中ではがされたり切り離されたりするが、これが写経所の事務用の紙として再利用される事例などを紹介し、文書の形態から写経の作業工程の具体像を復元するという最新の研究動向を解説した。『大日本古文書』の翻刻では知ることのできない実物の状態に即した研究の方法論が示され、それは複製によってもかなりの程度可能であると述べられた。史料編纂所の山口氏は、同所が編纂している『正倉院文書目録』の記述がどのような原本所見をもとに作成されているかを解説し、その所見が複製を用いても得られるものなのかを、多くの事例を挙げて説明した。他文書の墨写りや他の料紙を糊付けした痕跡などは複製でも確認できるが、角筆の勾点など立体的な情報は複製から読み取るのが困難であるなどの注意点が指摘された。最後に当館の小倉氏が、正倉院文書のコロタイプ複製の作業工程や熟覧の方法、利用に当たって留意すべき点などを紹介し、今後の複製利用の活性化を呼びかけた。
今回のワークショップは関東近郊の大学院生を中心に多くの参加者を獲得し、活発な質問や意見が飛び交い、若手研究者の正倉院文書への関心の強さを感じることができた。今回のような試みを今後も継続していくことを強く希望する次第である。