2021年10月16日(土)、東北大学災害科学国際研究所とオンラインのハイブリッドで、「多様な担い手たちによる地域資料継承セッション」を開催しました。このセッションはデジタルアーカイブ学会第 6 回研究大会第 2 部のセッションの1つとして、合同会社AMANE(以下AMANE)、国立歴史民俗博物館(以下歴博)、岩手県奥州市の共同提案という形で行われたものです。
デジタルアーカイブ学会は、その名の通りデジタルアーカイブに関わる経験と技術をテーマとした学会ですが、「国と自治体、市民、企業の連携、オープンサイエンスの基盤となる公共的デジタルアーカイブの構築、地域のデジタルアーカイブ構築を支援」ということも掲げています。セッション前日の15日には、3.11から10年目にあたる2021年に東北での開催ということもあり、「東日本大震災アーカイブシンポジウム」と題して、岩手県東日本大震災津波伝承館、みやぎ東日本大震災津波伝承館、福島県東日本大震災・原子力災害伝承館、岩手県、宮城県図書館といった地域の組織からの報告とディスカッションが行われました。
AMANE・歴博・奥州市の3者は奥州地域において産学官連携に基づいた地域資料継承支援事業を2020年から展開しています。日本国内には文書や民具をはじめとする多様かつ豊富な学術資料が現存しており、それらは学術研究の観点のみならず、教育や産業など社会の発展に資する重要な資源でもあります。しかし近年急速に進む社会や環境の変化によってその継承が困難に直面する一方で、技術の進展により新たな継承の手法が考えられるようにもなってきています。そのような状況を4件の発表により踏まえて、産学官および地域の人々といった多様な担い手たちによる地域資料継承を考えるというセッションでした。
1件目は歴博の後藤から、地域資料継承支援事業や資料継承のデジタルなプラットフォームとして使える khirin についての紹介を行いました。この事業では、地域との連携実践において踏まえるべき基本方針として、すべての人に平等な資料へのアクセス、取り扱いに慎重になるべき情報への配慮、調査行動および成果に対する学術的独立性の確保、学術的根拠の尊重、地域への適切な還元と持続的な活動という5つを策定しています。また、平時には教育・観光などの地域振興や学術研究に資する学術情報源として、災害発生時等の有事においては、資料レスキューや復興に資する災害対策情報として、オープンな形式で社会に情報を提供するモデルが示されました。
続いて、産の立場として堀井美里氏(AMANE)は、調査票の記録など具体的な調査のプロセスが紹介され、専門人材をどのように活動に組み込んでいくかといった論点が提示されました。次に、官の立場として高橋和孝氏 (奥州市教育委員会)からは、市管理の文書史料だけで15万点以上という大量の資料の継承を課題とする中で、政治家、研究者、実業家など異なった分野で活躍した人々が地域の中でどのようにつながっていたかといったことを知り、継承するための活動として産学官連携に対する期待が寄せられました。野坂晃平氏(えさし郷土文化館)からは、曹洞宗というつながりで奥州市(正法寺)、輪島市(總持寺)、羽咋市(永光寺)といった地域間連携の可能性と取り組みについての紹介がありました。 ディスカッションでは、自治体や協力する大学の予算が縮小していく中での資料継承について、継承の重要性の認識や手段の持ち寄りの観点で仲間を増やしていくことの重要性、また、状況の厳しさを必要な金額や人材の要件で示していくことの重要性が指摘されるなど、実践的な話題に基づいた議論が行われました。